東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)254号 判決
事実及び理由
審決に原告主張のような取消事由があるか否かについて検討する。
1 取消事由(一)について
(一) 本願考案が、柱等に取付けられる固定板と開閉扉に取付けられ、かつ、前記固定板に設けられた孔に係脱するデツドボルトを備えた施錠部とからなる施錠装置において、前記固定板側に防犯防災装置の電源を開閉するリードスイツチを設け、前記デツドボルト側には、施錠時にリードスイツチをオンとする永久磁石を埋込んだ構成としたものであることは当事者間に争いがなく、これと成立に争いのない甲第一号証の四及び甲第四号証の三の記載とを考え合わせると、本願考案は、前記のごとき構成によつて、開閉扉を鍵により施錠したとき、自動的に防犯防災装置の電源が投入されるようにした点に特徴があるものと認められる。
一方、成立に争いのない甲第六号証(実公昭四二―一五六九号実用新案公報)によれば、引用例一の考案は、「戸扉等の錠前と共に使用して錠の状態に応じて回路の開閉、切換を行う開閉器に関するもの」であり、その開閉器に関する構成のうち、器体1、錠前10及び鎖錠杆12(別紙図面(二)(〔編註〕省略)参照)は、本願考案における固定板、施錠部及びデツドボルトに相当することが認められるから、本願考案と引用例一の考案とは、審決認定のとおり、柱等に取付けられる固定板と、開閉扉に取付けられ、かつ、前記固定板に設けられた孔に係脱するデツドボルトを備えた施錠部とからなる施錠装置において、前記固定板側にスイツチを設け、デツドボルト側には、施錠のときに前記スイツチをオンとする手段を設けた開閉器である点で一致していることが明らかである。
(二) 原告は、まず、本願考案は、いわゆる従来の「隠しスイツチ」が有する使用上の欠陥を除去することを目的としたものであるのに、引用例一はその点の改良を意識したものでないことならびに引用例一の開閉器のスイツチは、どちらか一方の接点が常に導通状態にある構成であることなどを根拠に、引用例一の開閉器を、特に防犯防災装置用電源設定装置として用いることは引用例一の記載から当然に予測されるものではない旨主張する。
そこで、引用例一の記載内容及び開閉器の本来の機能などを参酌しながら、原告の右の点の主張を検討する。
引用例一には、「戸扉等の錠前とともに使用して錠の状態に応じて回路の開閉、切換を行う開閉器」を応用使用できる場合として、これを「戸扉等の錠前とともに使用して防犯、信号、点滅などに使用するものである」との記載があることは原告も認めるところであり、かつ、開閉器は、本来、特定の装置もしくは機構への電流回路を開閉するための装置であるから、引用例一の「戸扉等の錠前とともに使用して錠の状態に応じて回路の開閉、切換を行う開閉器」を引用例一が示唆するごとき「防犯」の目的に用いるとすると、不在にするにあたつて、引用例一のごとき開閉器の鎖錠杆(押圧杆)によつて扉に施錠するとともに、同時にスイツチ部分の構成を介して既存の防犯装置を作動可能状態にすることはきわめて容易に考えうることである。
したがつて、引用例一の開閉器を本願考案のごとく防犯防災装置用の電源設定装置として用いることは引用例一の記載内容に基づいて容易に推考しうる範囲のことというべきである。
たしかに、引用例一には、原告の指摘するように、従来の「隠しスイツチ」のもつ使用上の欠陥を改善しようとする発想もしくは提案は、直接は明示されてはいないし、また、スイツチの接点部分の構成などの細部については差異があるとしても、本願考案の装置と引用例一の開閉器とは、一致点として前認定のとおり、基本的構成において同一であり、かつ、引用例一に前認定のとおりの記載がある以上、これを既存の防犯防災装置の電源を設定する用途に用いることに想到するについて特段の困難があるとは認められないから、原告の右の指摘を勘案しても、前記判断を覆えすことはできない。原告のこの点の主張は理由がない。
2 取消事由(二)について
次に、原告は、審決が相違点(ロ)とした構成に関して、本願考案には、引用例二のドアーの鎖錠装置からは期待できない技術的効果があることを根拠に、本願考案のように固定板側に設けたスイツチを特にリードスイツチとするとともに、デツドボルトの施錠時にそのスイツチをオンとする手段としてデツドボルトに永久磁石を埋込んだ構成とすることは、引用例二の装置から容易に推考できることではない旨主張する。
成立に争いのない甲第七号証(特公昭四一―二一五六〇号特許公報)によれば、引用例二のドアー鎖錠装置は、その第三図及び説明(六頁左欄二一行ないし二九行)から明らかなとおり、リードスイツチと永久磁石との接近によつてリードスイツチをオンとするものであるから、審決が扉装置に関する技術分野において、「相対的に変位する一対の部材の一方の部材にリードスイツチを設け、両部材の接近時にそのスイツチをオンとする手段として、他方の部材に永久磁石を埋込んで設けるようにした構成」が理解できるとしたことに誤りはないが、引用例二の装置にあつては、リードスイツチは開閉扉側(本願考案では固定板側)に設けられ、一方、永久磁石はドアージヤム(本願考案では開閉扉側のデツドボルト)に埋設されていることが明らかである。このように、リードスイツチと永久磁石との取付け位置が本願考案と引用例の装置とでは逆になつていることは原告指摘のとおりである。
そこで、原告が右の相違から生ずる技術的効果と主張する事項を順次検討する。
(一) リードスイツチを柱側の固定板側に設けたことにより配線が容易であることについて
前掲甲第六号証によれば、引用例一の開閉器においても、直接スイツチングの機能を果す部分である接点13、14、15は、固定板側の器体1に設けられていることが認められる(別紙図面(二)参照)から、これにより配線が容易になるとする点は、本願考案と引用例一の考案とで特に異なるものとはいえない。
したがつて、この点の効果は、引用例一の開閉器の構成から当然に予期できる範囲のものである。
(二) スイツチング動作の確実さについて
引用例二には、リードスイツチと永久磁石との相対的な動作に関し「スイツチ118は、掛金とデツドボルト間のほぼ中間に面板28に接近して装着され、ドアーが閉じられるときドアージヤム内に埋設された永久磁石121の磁場内にあるようになつている常開リードスイツチである。」と記載されているところからみても、引用例二のリードスイツチと永久磁石との組合せにおいても、必ずしも両者の相対的位置関係が十分正確でない場合にも、リードスイツチが、所定の磁場内に入ることによつてスイツチングするようになつていることが窺われるから、引用例二のリードスイツチと永久磁石との組合せと本願考案の装置とは、スイツチング動作の確実さにおいて格別の差異があるとは認められない。
(三) 永久磁石がデツドボルトに埋込まれていることによる永久磁石の保護等の効果について
引用例二のドアー鎖錠装置にあつても、前記のとおり、本願考案の装置とは逆に永久磁石が固定板側に取付けられているとはいえ、ドアージヤム内に埋設されているのであるから、永久磁石が外部から保護され、そのための特別の空間を必要としないことは、本願考案のものと格別相違するものではない。そもそも、引用例一の開閉器において鎖錠杆の出入がスイツチの接点の切換えを間接的に制約していることからみて、この開閉器にリードスイツチと永久磁石との組合せを用いるときには、永久磁石を鎖錠杆側に施すことは、当業者のきわめて容易に考えうることとみるべきである。このことは、右スイツチの接点及び鎖錠杆のいずれもがそれ自体の動きによつてスイツチを能動的に制御する機能をもたされた部材であつて、そこには機械的な直接接触によるか、磁気を利用した近接制御によるかの相違があるに過ぎないことを考えても明らかである。
(四) 従来の施錠装置に簡単に組込めることについて
引用例二のドアー鎖錠装置においても、前記のとおり、リードスイツチと永久磁石との組合せによつてスイツチングを行わせる構成であるから、本願考案の装置が、引用例二のものと比較して、この点に関して格別顕著な相違があるものと認めることはできない。
右の検討から明らかなとおり、原告が本願考案と引用例二との差異に基づく技術的効果として主張する事項は、引用例一もしくは引用例二の装置や構成から当然に予測しうることであるから、これらの事項を参酌しても、審決が相違点(ロ)に関し引用例二の装置からきわめて容易に推考できる程度のことであつて、引用例一の開閉器を相違点(ロ)のように改めることが、きわめて容易にしうることであるとした判断には誤りがなく、この点の原告の主張は失当である。
3 取消事由(三)について
原告は、本願考案は、開閉扉を鍵によつて施錠したとき、自動的に防犯防災装置の電源が投入されるようにして、外出時の電源の入れ忘れや帰宅時の切り忘れがなくなるという顕著な効果を奏する旨主張するが、既に取消事由(一)について検討したとおり、引用例一の開閉器を既存の防犯防災装置用の電源設定装置として用いることには特段の困難性があるとはいえないから、原告が主張するこの点の効果も、引用例一の記載から当業者がきわめて容易に予測しうる範囲のことといわざるをえない。
原告は、本願考案は、固定板と開閉扉の施錠装置に従来の「隠しスイツチ」に相当するものを設けたことによつて、従来別途設置していた「隠しスイツチ」を不要とした点を強調するが、本願考案が、原告の主張するように、従来の「隠しスイツチ」が果していたすべての作用効果を奏しうるものとは認められない。けだし、原告のいう隠しスイツチの場合には、別個に設けられていることから、当該扉が不正に開かれた場合にも、なお防犯装置が作動しうる状態にあつたが、本願考案の場合には解錠とともに防犯装置用の電源回路を開いてしまうので、防犯装置は、その機能を休止することになるからである。
さらに、原告が引用例二の装置との相違に基づく技術的効果と主張する事項も、前記判断のとおり、各引用例適用の域をでない程度のことと認められるから、審決が本願考案に格別の作用効果は認められないとしたことに誤りはない。
以上のとおりであるから、審決には、原告主張のような違法の点はない。
よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当として棄却する。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
電源の設定により作動する防犯防災装置において、柱等に取付けられる固定板と開閉扉に取付けられ、かつ、前記固定板に設けられた孔に係脱するデツドボルトを備えた施錠部とからなる施錠装置の前記固定板側に前記防犯防災装置の電源を開閉するリードスイツチを設け、前記デツドボルトにその施錠時に前記リードスイツチをオンとする永久磁石を埋込んで設けたことを特徴とする防犯防災装置用電源設定装置